「なんでそこで永倉さんが出てくるんですか?」


男心と永倉。 関連性がないだろうと、今度は矢央が眉間に皺を寄せた。


「いや、だからー」

「さーのーっ! てめえ、それ以上余計なこと言いやがったら、どんなことになっても知らねえからな?」


眼の端に涙を溜めていた原田を羽交い締めにし、永倉は腹の底から低い声を出す。


そんな二人を訝しげに見ていれば、袴がくいくいと引かれたので、その人物は茂だと分かるとにこっと微笑んで背を屈めた。


「どうしたの? 茂ちゃん?」

「はは…おっぱいっ…!」


キャキャと愛らしい笑みを浮かべている茂は、小さな手を矢央の胸に当てる。

その瞬間、三人はぴたっと動きを止めたが、直ぐに反応したのは原田だ。


「茂が喋った。 んだよー、初めは父上だろうがー」


破顔しヘラヘラと言う原田の隣では、あんぐり顔の永倉。


「…えっと、お腹空いたってこと? 茂ちゃんごめんね、私お乳出ないや」


未だに矢央の胸から手を放さない茂は、矢央がやんわりと言うとふにゃりと顔を歪ませる。


あ、泣いちゃう。 と思った矢央は、直ぐ様茂を抱き上げ「おまささーん!」と、家の中にいるおまさの下へと向かってしまった。


残されたのは永倉と原田。



「…いやー悪いな。 矢央の乳、茂が初めて揉んだってことになんのか? いやーすまんすまん」

「…俺に詫びる意味が分からねえ」

「のわりには、機嫌悪くねえ?」

「誰のせいだ誰の」