京の夏は兎に角暑い。 何度汗を拭っても、また新しい汗が流れる茹だるような暑さを迎えた七月。


「ちょっと顔を出してみれば、またお前はこんなとこで油売ってんのか」


永倉は巡察の後、隊士達とはその場で別れ原田の家に訪れてみると、もう見慣れ光景に腕を組んで矢央を見下ろしていた。



「あ、永倉さん。 お勤め御苦労様でした。 それと今日は原田さんが誘ってくれたんですからね!」


原田の家の庭先で、相も変わらず茂と戯れている矢央は侵害だと言わんばかりに頬を膨らませる。


「屯所で死ぬ死ぬって叫ばれちゃ仕方ねえだろ? そうだ、水浴びでもすっか!」

「だって皆お仕事で暇だったんですもん。ああいいですねー、水浴びしましょう!」



そうと決まれば善は急げと、大きめの桶を用意した原田はそこへ井戸水を流し込んだ。


早く早くと急かす矢央と茂を見ていた永倉の下へ、原田の妻おまさが茶を持ってやってくる。


「永倉さん暑い中御苦労さんどした。 さあ、喉渇きましたやろ、どうぞ」

「おお、かたじけない」









隊服を脱ぎ縁側の隅っこに押しやり原田と共に、水浴びをして遊ぶ矢央と茂を見ていると、何とも穏やかだと感じた。

自然と顔も綻び、ふっと鼻で笑えば、原田が語りかけてくる。



「なあ、いいもんだろ?」

「…あ? なにがだ?」


家の中に眼を向ければ洗濯物を畳むおまさの姿があり、庭を見れば可愛い息子が楽しげに笑っている。


「こんな生活も良いだろって」


いつも楽しげに巡査している原田の台詞とは到底思えなかったが、その男の顔を見ると幸せそうでこの暮らしがあるからこそ今の原田があるのかと永倉は笑った。


「そうだな。 こういう幸せもあるんだろってのは分かる」

「だろ? 男つうのは家庭を持ってこそ強味になるんだぜ!」

「おお、そうかいそうかい」


藤堂がいなくなり早くも四ヶ月が経ち、こうして最近は藤堂の代わりに矢央が三馬鹿の仲間入りをするのが当たり前になりつつあるこの頃。

漸く原田も落ち着いてきたのか、最近はこうしておおらかに笑えるようになった。

此処にいる三人にとって藤堂は欠けてはならない存在だったと、本人がいなくなって尚痛感するのだ。

だからなのか、誰が言ったわけでもないのに三人はこうして互いの穴を埋めあっていたりする。