矢央に出会った頃は、初すぎる程初で年頃だというのにそれらしき素振りはなかった。

それは今もあまり変わらないのだが、いつの間にか此方も成長してのか。



「…まだよくは分からないんです。 でも、その人といると此処が苦しくなる時があって」


胸を押さえ、頬を赤らめる姿は最早疑いようがない。

矢央は恋をしている、と。


「さよか。 なんやちょっと寂しいもんやな」

「寂しい?」


問えば山崎はにやっと笑う。


「俺にそれを話す言うことは、その相手は俺やないちゅうことやろ」

「え、あ…そうなりますね」

「こんな色男前にして後悔すんで」

「そんなこと思ってもいないくせに」



唇を尖らし拗ねる姿は、まだ幼い。

山崎は椅子から身を起こすと、矢央の頭を撫でてやる。


きょとんと山崎を見上げる矢央。



「間島が此処を出て行きたあないんは、そいつがおるからなんやな」

「……それも、あります」

「ならもうなんも言わん。 お前の好きなようにせえ」



いつになく優しく微笑む山崎に「ありがとうございます」と、小さく囁いた。








それから四日後の、六月十五日新撰組は西本願寺から不動堂村へと屯所を移転する。


そして更に数日後の六月二十三日は、幕府より正式な通達があり新撰組は幕臣となったのである。


これにより京都見廻組と同格の扱いとなり、近藤に至っては将軍に御目見えすることも可能となる。


ようやく近藤の夢が叶った日となったのだった。