時が過ぎるのは早いもので、六月。

本格的な梅雨を迎え、ここ最近雨ばかりで気が滅入りがちな新撰組だったが嬉しい知らせが舞い込んできたのは六月十日のこと。


この日、矢央は朝餉を済ませると足早に席を立つ男達を見送った。





そして昼前にして漸く解散した男達。幹部達が嬉しそうに廊下を歩いて行くの庭掃除をしながら見ていた矢央は「ん?」と首を傾げる。


そこへその視線を感じたのか、六月だというのに回りの男達よりも厚着した沖田が手招きをして矢央を呼び寄せる。



「総司さん、何があったんですか? なんか皆さんとても喜んでるみたいですけど」

「それがですねえ」

「いやー、新撰組もついに幕臣か!」

「近藤さんの顔見たか? あれは相当舞い上がってるな! 俺達の前だからって我慢してる見え見えで逆に笑えらあ」



沖田が話を始めようとしたところへ、永倉と原田が歩いてくるので一時中断し二人を凝視した。

二人の存在に気付いた永倉、原田も廊下に中腰になっている沖田の隣に行くと、庭に立って三人を見上げる矢央ににかっと笑って見せた。


「矢央、聞いて驚け! 俺達、新撰組はこの度幕府からの内示があり幕臣に取り立てられた!」


原田は先程の近藤の真似をしているらしく、それが分かる永倉は腹を抱え、沖田はくすっと小さく笑っているが、矢央には意味が分からずまたもや首を傾げる始末だ。



「幕臣…ですか?」


そこでピタリと三人は動きを止め顔を見合わせた。


忘れていたのだ、矢央は未来から来たはずなのにこの時代背景をまったく知らないのだと。


一から説明するとなるお骨が折れると思った永倉は頭を掻き、代わりに沖田が答える。



「本当に簡単に言うならば、近藤さんの夢が叶ったと言うことです」

「近藤さんの夢が? じゃあ、喜んで良いことなんですね!?」

「はい!勿論」


良く理解できなくても、世話になっている近藤が喜ぶことならば矢央とて嬉しい。


最近は良くない話ばかりだったから、尚更嬉しさも倍増だろう。



「ま、まだ内示だからな。この事は正式に通達があるまではあんまり周りに言うなよ?」


永倉は嬉しそうにニコニコと微笑んでいる矢央の頭を軽く撫でた。


「はい!」