トクン。

トクン。


心臓が壊れてしまうんじゃないかという程煩く鳴っている。


酒のせいか熱を帯びた永倉の眼は少し潤み妖艶さを増していて、慣れていない矢央は何処を見れば良いのか分からなくて視線だけを左右上下に揺らす。


どうしてだ?

最近になって永倉は過剰に矢央に接してくるようになった。

それまでは、付かず離れずだったじゃないか。

否、永倉は矢央を避けていた時期すらあったではないか。





ーーーなのにどうして今更。





「どうした? ほら、呼んでみなって」

「っっっ! い、いい加減にしてくださいっ、永倉さん酔ってるでしょっ!?」


自分の頭を固定している永倉の手を掴み引っ張る。


案外すんなり離れると、永倉はぽすっと矢央の肩に顔を埋めてしまった。



「なが…」

「ちょっと待て」

「…は?」



矢央は知らない。

今、永倉が必死に顔の火照りを抑えていることを。


酔ってるだろうと言われて初めて自分が酔っていることに気付いた。

久しぶりに仕入れた上等な酒と、この雰囲気に酔ってしまったらしく、気付けばあんなことを言って矢央を困らせてしまった事が恥ずかしい。




嫉妬なんて、年甲斐もない。


なんて思い溜め息をつく。



すると、ポンポンと小さな手が永倉の背中をゆっくりと叩きだすものだから、顔を上げるタイミングすら失ってしまった。



「気分悪くなるまで飲まなくてもいいのに。 ほら、大丈夫ですか? 良かったらお水取ってきましょうか?」


「……いい」


「でも」


「いいから、暫く俺の顔を見るな」



更に赤く染まる顔を見られないように、永倉は矢央の細い腰に腕を回し強く抱き寄せてしまう。


戸惑う矢央だったが、酔っ払いのすることだからと仕方なくその場は大人しく過ごしていた。