「土方さん立ってないで座ったらどうですか?」


そう言われて遠慮なく隣に座り、見事に花を咲かせる桜を見上げる。


「そういや、こうしてお前と春を迎えるのも四度目だな」

「そうですよね。 早いです」

「矢央幾つになった?」

「十九です」



もうそんな歳になるのか。
どおりで大人になったと思うはずだ。


初めてあった時は奇抜な色をした髪の変わった少女だったのに、すっかり黒髪に変わってしまっていて、それも少し名残惜しい。


「土方さん。私、近藤さんの提案通り刀を持とうと思ってます」

「…本当に良いんだな? 刀を持つと言うことは」

「別に人を殺めるために持つわけじゃないですよ? ただ…」


言葉を濁した矢央は、最近の皆の様子を振り返った。


「皆過保護ですよねー。 私、そんなに頼りないですか?」


最近は前にも増して、皆口を揃え「大丈夫か」だの「守ってやる」だの矢央を見るたび気にかけてくれる。


嬉しいことだけど、それは矢央を逆に強くさせようとした。



「守られるだけなんて嫌ですよ。 私は、皆が安心して帰って来られるように、この場所を新撰組を守りたいんです」


土方は声に出さず驚いていた。

本当にいつの間に成長したのだろうと。



「だから刀を持つと決めました。 安易に決めたことじゃないですから」


桜を見上げる凛とした横顔を、不覚にも美しいと感じ思わず腕を伸ばして、矢央のさらっと流れる髪に触れる。


腰まであった髪を一度首にかかるくらいまでに短く切った髪も、今は肩より下まで伸びていた。


特に身体を動かす予定がない時は髪を結わない矢央は、今日も風に髪を遊ばせている。


それを指で掬い、甘い笑みを浮かべる土方。



「土方さん?」

「んなに急いで大人になるなよ」


見つめあい、時が止まる。

普段の土方らしからぬ行動に居心地悪くなって視線を反らした。



「さ、斎藤さんがね…」

「ん」

「良い女になったって」

「…ああ、かもな」

「ええっ? すんなり認めないでくださいよ!」

「嬉しくねぇのか?」



未だに髪を弄るのを止めない土方はクスリと笑う。

分かっていてやっているような気がして、グッと言葉を呑み込んだ。