藤堂が出て行ってから数週間立ち、また桜の季節がやってきた。

新撰組副長の土方は毎日仕事に追われている。


今日も今日とて相変わらず紙と睨めっこなのだが、先程からちらっと視線の奥に入るものが気になって筆を置いて立ち上がった。



部屋を出て少し歩くと、其処には見事な桜。



この場所で藤堂と矢央を見かけたのは、もう数週間も前かと思う。



あの時どうして藤堂を止められなかったのか。


矢央が襲われているのを見ても、その矢央以上に辛そうな藤堂を止めるなんて出来なかった。



「矢央」



それがあって少しの気まずさから、土方は久しぶりに矢央に声をかけた。

忙しかったのもあるが、助けてやれなかった自分がどんな風に声をかけていいものか。


「あ、土方さんだ~」


此方が戸惑っているというのに、原因を作る本人は階段に腰掛け両手を後ろについて後ろに立つ土方をふにゃりと砕けた笑みを見せてくる。



「もう泣かねぇんだな」


藤堂や斎藤がいなくなって数日、矢央は時々思い出したように涙を流したと聞く。

芹沢や山南とはまた違った別れ。


会おうと思えば会えるのだろうが、この時代は厄介なもんで、そう簡単に会うことは許されない。


「もう泣きませんよー。 寂しいけど、もう二度と会えないわけじゃないでしょ」

「そうか」



強くなった。と思う。


泣いてばかりいた少女が、いつの間にか一人の女に成長したのは嬉しいことか。
しかし、少し寂しくも思うのも本心だ。