「矢央はどうする気だ」

「……もう、終わったから」



永倉と原田は互いに顔を見て、また藤堂を見下ろした。



「振られましたよー。 もう気持ちいいくらい、あっさりと! はい、もういいでしょ? あとは、皆で宜しくやってよ」


二人の間をわざとらしく元気なフリをして通り抜けようとすれば、原田の逞しい腕が喉元に食い付いて「ぐえっ」と、変な声が出る。













「泣いてんじゃねぇよ。 てめぇ玉ついてんのか?」



ふさっと髪を撫でるのは、永倉の大きな手か。




「泣きたくもなるわな。 平助、お前は立派な男だ」







ああ、なんでこうも暖かいのか。

仲間を裏切って出て行く自分を、彼等はどうしてこうも優しく包んでくれるのだろう。


いつも自分の前を行く二人の背中は大きくて、いくら背伸びをしてみても追い付けなかった。

だけど彼等は自然と自分を受け入れ、いつからか三人で毎日馬鹿をして過ごす日々。

そんな日々が、ついこの間まであったはずなのに。

否、遠い昔事なのか。


「……平助、俺はまたお前や新八と馬鹿して大笑いしてぇぞ」

「左之の腹芸でも見ながら酒飲んで、酔い潰れて一緒に土方さんに怒られるのも悪くねぇか」



暖かければ、それだけ辛くなる。

この温もりを自ら手放したんだ。



「なあ、平助。 やっぱり……」

「ごめん。もう無理なんだ」



二人の腕を退かし、振り返ることなく歩き出す。


もう決めたことだから。

賭けに負けたのは自分だ。


今更泣いたって駄目なものは駄目で、どちらかを取ると決めた時点でどちらかを失うと分かっていたじゃないか。



だから。










「さようなら、新八さん左之さん」





もう過去にも未来にも逃げられない。














慶応三年、三月十六日。

伊東を筆頭に藤堂と斎藤含め十三名が御陵衛士として新撰組を去って行った。


新たな旅立ちを祝っているのか空は晴天。

しかし、それぞれの心には晴れきれない雲がかかっているようだった。