「平助さんっ! 平助さんっ!」


伊東が屯所を出て行くと聞いたのは今朝のことで、伊東がいなくなることには大して驚きにはしなかった。

しかし、伊東と共に出て行くメンバーの中に見知った名前があると分かると慌てずにはいられなかった。


朝食もそこそこに矢央は、昨晩から姿の見えない藤堂を探すため屯所内を走り回る。


そしてようやく見つけたのは屯所の中で唯一桜の木がある場所で、まだ桜の蕾しかない状態の木を近くの階段に座って見ていた。


藤堂は矢央の慌てた息遣いに苦笑いを見せた。


「探してくれてたの?」

「平助さんっ、なんでっ?」


一瞬見開かれた双眼も、すぐさままた桜の木へと移る。


「どうして新撰組を辞めるんですかっ?」


藤堂は何も言わない。


「どうして離れるんですかっ?」


此方を見ようとしない藤堂に焦れ、矢央は藤堂の隣に移動に無理矢理此方を向かせようと肩を掴んだ。


そしてようやく藤堂は矢央を見て口を開いた。



「どうしてなんて理由は簡単なんだよ」

「簡単?」

「此処にはいたくないからだろ」

「え? なんで?」


どうしてそんな悲しいことを藤堂が言うのか分からない。