ドタバタと廊下を遠慮なく走る矢央の姿を見た斎藤は「待て」と呼び止めた。


呼び止められた矢央は、その瞳にゆらゆらと揺らしながら斎藤を見上げている。




















「近藤さん、これは新撰組にとっても悪い話ではないのですよ。 我々は薩長の動きを掴み、貴殿方にお伝えしようと言うものです」


近藤は伊東の言葉に困惑しながらも、諦めたように息を吐いた。

その隣では相変わらず鋭く伊東を睨む土方の姿もある。


伊東はかねてから新撰組からの離脱を申し入れていたのだが、この日ようやく近藤は頭を立てに振ったのだ。



孝明天皇の墓守りのために与えられた役職。御陵衛士として新撰組を出て行くことを。



「あくまでも我々は同士だと言うことを忘れなきよう」


くすりと笑う伊東を一瞥し、土方は狐のような男だと思いながら酒を口にした。