「そこで、君に確認したい」

「は、はい」


ずいっと顔を寄せられ、身体を強ばらせる。


「藤堂君は、間島さんを好いてるんだね?」

「っっ!!」


もう良い年をした青年が、たかだかこれしきの事で頬を赤らめ慌てる。

それが藤堂がいかに素直で真っ直ぐな男であるかを物語っていた。



「好いている女性が危険な場にいては、君も安心できないでしょうに。 それに、山南さんのこともそうだ、君は相当疲れている」


山南のことまで知っていたとは。

伊藤はどこまで知っているのだろうか。


「この間のお誘い、忘れてください。 そして、君は彼女と共に生きなさい」

「ーーーーえ?」



自分はそんなに馬鹿ではないと思っていたが、それは違っているのか。

伊藤の言っていることがいまいち理解できず首を傾げた。



「ですから、藤堂君は私と共に行く不利をして隊を抜け、そして彼女も同じように隊を抜けさせればいい。 そして、若い君達は二人で共に静かに暮らしてはどうかな?」



ゴクンと喉がなった。

なんて甘い誘惑なんだろうか。

いつか見た夢そのものが、伊藤の口から聞かされる。


そんなこと本当にできるのか?

隊を脱する者は切腹なのに?

だから山南は死んだのに。


幾つもの思いが藤堂を困惑させて、心が壊れてしまいそうだ。



「大丈夫。 私たちは、山南さんのようにはならないように、それなりに考えてますよ。
さてどうしますか? 私なら、君の望を叶えてあげられる」


「どうしてそこまでしてくれるんですか?」


「おや、それは愚問ですね。 私は藤堂君を弟のように可愛がってきたつもりでしたが、所詮つもりはつもりってことでしょうか?
それでも事実私は君の幸せを願ってしまっていてね、それはきっと山南さんも同じだと思いますよ」


「伊藤、さん」


「それに、女性がこんな場所いることも私は気に食わないのでね。 彼女のためにも、君はこちらにつくべきだ」







シャラリ、シャラリ


身体が軋む程に巻き付かれた鎖。

藤堂の心には本人すら解けない鎖に縛られていたのが、伊藤の誘惑で意とも簡単にほどかれていく。


身体も頭も久しぶりに軽かった。

いつからこんな重荷を背負ってしまったのだろうか。


ーーーああ、目の前に光が現れた気がした。