男が操られていると分かったのは、男の目が白目を向いているから。


口を開けて端からはだらしなく涎が垂れていて、見るからに不気味だ。



「っはあ、ん、熊木さんっ、貴方の狙いはなにっ?」


あの日、熊木は確かに迷わず赤石を狙っていたが、お華のいない今大して力はないように思え、だったら熊木の新の目的は何かと探る。


「貴女にそれを言ったところで何になりますか? 死に逝く貴女は知る必要がない」

「ッッ。 勝手に殺さないでっ」

「死にたくないですか? そうですよね。 ならば、貴女にとっては死ぬより辛い体験をしてもらいましょうか」

「何をいっ…」


身体が動かなかったのは一瞬で、でも自分の意志とは違う動きに心臓がドクドクと打つ。


震える腕にしっかり握られている脇差し。


目の前にいた虚ろな男は、突然意思を取り戻しきょろきょろと落ち着かなく回りを見ている。


ーーーやられた。


矢央の動きは熊木に支配され、その刃は迷うことなく男に向けられて。


「い、や……」


小さな叫びも虚しく、刃は男の心臓を一気に突いた。


「っごあ、ごほっ」


男の吐いた血がドバッと胸元を染め、刃を引き抜くと矢央に向かって赤黒い血飛沫が舞う。



そして、だらりとその場に男は息耐えた。



生々しく感じる心臓を突いた時の感触と、生臭く未だに温もりのある血の感触。


熊木の支配から解けた身体は力なく血溜まりに沈んでいった。



「壊れればいい。 貴女もこの世も全て」