人を掻き分け男を追うと、いつの間にか薄暗く人通りの少ない場所に辿り着く。


「はあ、はあ、もう逃げられませんよ」


男が行き着いた先には壁、目の前には矢央がいて男は逃げ場を失った。
かのように見えるが、男は何故か余裕顔だ。


「はん! お前みたいな餓鬼には捕まらねぇよ!」


追って来たのが小柄な少年。に見える矢央だったからの余裕だ。


男の方が体格は当たり前のように大きく、そして腰に差した刀の大きさも違う。


どう考えても矢央に勝ち目なしである。








「大人しく捕まってくだざい! そのうち仲間が来ますよ!」


「嫌だねっ! お前を斬って、逃げるっ!」


男は刀を乱暴に振る。
初心者か、と言いたくなるような剣捌きを見れば、受け流すのは難なくできそうだと判断する。



矢央目掛け無我夢中に刀を振り、それをまた避けられての繰返しに男の息も、そしてさすがの矢央の息も僅かに上がった頃。




「いつまでも受け身では決着がつかないですよ」


「へっ!?」


誰。 と、思って背後を振り返ったそこにいたのは今会いたくない男第一位の熊木だった。


「なんで、貴方が此処に?」

「それは簡単な質問ですね。 貴女をずっと見てるから、ですよ」


不適な笑みに背中がゾクゾクする。


前には不逞浪士。後ろには熊木。


ーーーしまった! 逃げられない!



そう思った時には遅く、油断した矢央めがけ男が突きの構えで走ってくる。
咄嗟に機転を利かし避けたものの、僅かに服を掠めていた。


そして、男の動きが変わる。


突きの姿勢から一気に体勢を変えて、真横に避けた矢央の首目掛け刀を押し付けてきた。



「なっ!?」


さっきまでとまるで別人なその動きに、壁と刀に挟まれた自分の状況に危機感が募る。


なんとか一瞬の内に脇差しを首と刀の間に差し込んだまではよしとして、このままでは持たないのは歴然。


ぐいぐいと押してくる強さに眉を寄せていると、男の背後に熊木が立ったのが見えた。



「いいんですか? 死にますよ」

「っよくない!! てか、熊木さんは何の目的があって…ってあああっ!」

「くく。 余所見はいけない」



目の前にあったはずの刃は、今は矢央の足を切り裂いていた。

鋭い痛みに視界が歪むが、そんなこと気にしてる暇はなく、また男の刃は矢央に向けられていた。


しかしよく見れば、様子が変なことに気付く。


男の目は虚ろで矢央のことは見えていないようなのに、その手に握られた刀の先は迷うことなく矢央に向けられていた。


ーーーなんで? まさか、熊木さん?



「気付きましたか? そうこれが俺の力です」




そう言って意味深に笑った。