「ふふっ。 やっと笑ってくれた」

「え?」


藤堂はこのところずっと表情を強ばらせているのを、遠目からでも矢央は気付いていて気になっていた。


山南のことがあってからというもの、藤堂のお茶らけて和やかな雰囲気はなくなり、いつも何処か心此処に有らずで。

その上、いつも自分の心配ばかりしてくれる藤堂が気になって仕方ない。


「平助さんは、笑ってくれてる方がいいです」

「……ごめん、な。 気を使わせてるよね」


湯呑みに手を出して、一口口に含むと少しの苦味が口内に広がった。


まだまだ生温い風が、縁側に座る二人の髪を優しく撫でる。



「矢央ちゃんは、あんなことがあったのに…なんで笑ってんの?」


何処か冷めていた。

自分が守りたいはずの彼女の笑顔を見るのが無性に辛いのだ。


「笑うしかないじゃないですか。 泣いたって現実は変わらない。 笑ってたって変わるわけじゃないけど、少なくとも気持ちは前向きになれますよ」


「そう、かな…」


矢央の言う通り泣いても笑っても怒っても、現実は決して変わらないだろう。

それでも彼女のように、前向きに頑張るために笑い続けるなんて、とても出来ない。


「僕は君の笑顔に何度も救われたけど、実際に君が窮地に立った時結局なにもできなかった。
男として情けいないよ……。
この手で確実に守りたいものがあるのに、僕の前から少しずつ全てが消えていく」


「平助さん、あたし前にも言いましたけど、ただ守られるだけのお荷物にはなりたくないんです。 確かに皆より弱いし、皆の力を借りてばっかりだけど、それでもあたしはあたしなりに強くありたい」


矢央の瞳は真っ直ぐ青空を見つめていた。

揺らぐことはなく、透き通った瞳はただ前を見ている。


「……っ! 平助さんっ?」