「毎日頑張ってるねぇ」


そう言って、何故か藤堂まで箒を持って庭掃除を手伝い始める。


こうして藤堂を見るのは、矢央が襲われて以来だった。


「平助さん、今日は?」

「……非番だよ」

「そうですか」



気まずい。

特に何を話す訳でもなく、互いにただひたすら庭を掃く。


矢央が小さく溜め息を吐くと、チラリと藤堂が視線をやった。


あれから暫くして矢央の首に巻かれた包帯は取れたのだが、思ったより刃が深く入っていたのか赤茶色くうっすら傷痕が残ってしまった。

伸びた髪を後頭部の下の方で纏めている隙間から、その傷痕ははっきり見えていて藤堂は眉を寄せた。


あの日、どうしてもっと早く気付けなかったのかともう何度も飽きる程に悔やんだ。

大切のものが自分の中からどんどん崩れていくようで、藤堂の心は平静を保てない。


掃くのを止めて箒から片手を離し、掌を無言で見つめる。



「平助さんのおかげで、庭掃除早く済みました! ありがとうございます!!」

「え? ……ああ、うん」

「平助さん、良かったらお茶しません?」


矢央の誘いに断る理由もないので、藤堂はお茶を淹れに行った矢央の分の箒を預かり片付けに向かった。


そして、先に庭の見渡せる縁側に腰を下ろしボーッと庭を眺めていると、そこへお盆を持った矢央がパタパタと小走りにやってくる。


「慌てなくて良かったのに」

「え? いや、良いもの見つけまして、誰かさんに察知される前にと思って」


そう言ってにやっと笑いながら、饅頭を二つお茶と共に床に置く。


「それって、総司でしょ」

「はい。 どうしてか甘味だけは、直ぐに見つけるんですよねー、鼻が利くんでしょうか? 前世は絶対犬ですよね」


「犬か。 どっちかと言えば猫でしょ、あれは。 気紛れすぎるし」



他愛ない会話にようやく場の空気が和んだ。