「矢央」


土方の声にビクッと肩を上下させ、初めて顔を上げた。


「矢央」


「ひっ…ひじ…ヒュッ…」


涙を流し必死に土方の名を呼ぼうと声を出すが、思うように声が出ない。


それどころか、呼吸すら上手くできなくなっている。


「……山崎を呼んでくる」


鞘に刀を締まった永倉は、矢央の様子を見て瞼をキツく閉じた後、小さく息を吐き出して部屋を出て行った。



「はっ…はぁはぁ……ひっ…ひゅっ…」

「もういい。 喋らなくていい」


土方は身を屈めると、矢央を包み込むように抱き締める。

震える腕を優しく撫で、もう片方の手で頭を抱え込んだ。



「…もう大丈夫だ」

「………」

「矢央さん、休みましょう?」


二人の前に屈んだ沖田も、矢央の涙で濡れた頬に手を添えて言う。

安心させようと、優しく撫でてやる。


「私が傍にいますから」


おっとりした沖田の声と、土方の温もりにようやく安心した矢央はスーッと意識を無くした。


力の抜けた身体を抱き上げた土方は、取り敢えず自分の部屋に運ぶことにして部屋を出ようとしたが、未だに蝶の死骸を見つめたままの藤堂が気になり足を止めた。



「平助、直ぐにこの事について話し合いだ。 そろそろ原田や斎藤も巡察から戻るだろう、声をかけてやれ」


「……はぃ」


消え入りそうな程に小さな声だった。


それだけ言うと土方は部屋を後にし、その後に沖田も続いた。


藤堂だけは、その場を暫く動けないでいた。