秋の気配がより色濃くなる夕刻まで矢央は沖田の部屋にいた。
本当はもう少し早く部屋を出るつもりでいたのだが、これが珍しいことに沖田が矢央を呼び止めたのだ。
慌ただしくなっていく外の音に耳を傾けながらも、意識はある一点に向けられていた。
『私の存在は剣を振るってこそあるものなのに』
そう呟いた沖田は相変わらず笑っていたが、矢央にはそれが泣いているように見えた。
その後、疲れさせてはならないと沖田を布団に寝かせ、部屋を出ようとしたが
「もう少し此処にいて下さい」
そう言って、矢央の袖を掴む沖田。
用事があるわけでもなかったので、一度立ち上がりかけたのを止め、また膝を床につけた。
布団から出ていた手を握り、布団の中に戻そうとした時だった。
―ギュッ…と、白く細い手に包まれた。
「沖田さん?」
枕に乗せた頭を矢央に向け、きょとんと瞬きする矢央をじっと見つめ沖田は言う。
「こうしていると心が休まる。 暫くでいいので、手を握っていてもいいですか」
普段女性っぽく見えるのに、不思議と今は男性を感じさせる。
布団に流れる黒髪と、目を細める仕草に一瞬どきっとした。
「……矢央さん」
「は、はいっ?」
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