「う~ん、薄い」

女中と共に朝餉の支度をする。

味噌汁担当になった矢央は、味見をして違和感を感じた。


「そんなことないけどなぁ。ええ味でとるよ」

「そうかな?」


救護隊の仕事の他、雑務もこなしていた矢央は、また最近仕事を増やした。

あくまで自分からやりたいと願い出たので、仕事とは思っていないのだが。


「矢央ちゃん、次は魚をお願いな」

「は~い」


そして、それと同時に矢央にとって初めて女の友達ができた。


屯所移転の際、人手不足を補うため新に女中も増えたのだが、そのうち一人が矢央と同じ年のお雪という女子だった。


あまり表沙汰に矢央が女とは言えないが、隠すとなると男だけでは不甲斐なく何かあった時のためにとお雪だけには女であることを打ち明ける許しがおりたのだ。


「にしても、急にどないしたの?」

「へ?なにが?」


パタパタと、団扇を仰ぎながら矢央はお雪を見上げた。


すると、くすくす笑いながら顔を指される。


「お鼻黒うなっとる!
 いやね、確かに女やし料理を覚えたらって言うたけど、あまりに急やったから」


「ああっ! 恥ずかしっ!」


ごしごしと汚れた鼻を拭う。


「とくに理由はないけど、ちょっと女らしくした方がいいのかなって」

「うちは賛成やけど!」



「普通の女子になりたいとおもはないの」と、この間藤堂に聞かれ、今のままが普通だと答えはしたが、


(料理くらいは、ね…)


ちょっとした心境の変化だった。