藤堂は戸惑った。
 矢央の瞳は迷いの欠片もない。


「別に、そういう訳じゃない」


なんだか見透かされているように感じ、居心地悪く顔を反らす。


「新撰組にいれば、そこらへんにいる可愛い女の子ではいられないけど。 でも、みんなと一緒に泣いて笑って戦って、それが私のこの時代での普通です」


本当に強くなったと、藤堂は思う。
きっとこれから更に激動の時代がやってくるのは分かっているのに、こうも力強く笑えるのか。

「平助さん」

「ん?」


ジャリっと、草履が土を踏む音が響く。


「頼りないと思うけど、少しは私に寄りかかってください」


環境が変われば、みんなも少しずつ変わっていく。

藤堂もそのうちの一人だ。


山南の事があって以来、一人でいることも増え、いつも寂しげに立っている。


「いつも甘えてばかりいたから、こらからは甘えられるのもいいかなって」


えへっと、舌をだしおどけてみせる。

可愛いな、と自然と笑みが漏れた。


「男たるとも、女子に甘えるなんてできないね!」


調子を取り戻し、腕を組んでふんっと胸を張った。


「ええ~、土方さんはたまに甘えてますよ?」

「…それは、また意味が違う、かな」

「そうなんですか?」


良かった。
 矢央が、あまり深く追求する性格ではなくてとホッとする。


「まあでも、疲れたら肩でも貸してもらおうかな」

「勿論です!」



ほんわかした空気の中、屯所の明かりが見え二人の歩く速さが少し上がった。