土方の口から初めて聞かされた直接的な言葉に、矢央の口許は綻ぶ。

嬉しそうに微笑む矢央を見た坂本は、諦めに似た表情を浮かべるとソッと手を下ろした。


「矢央を任せたぜよ」

「あんたに言われるまでねぇよ」


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坂本との出来事を話終えた土方は、自分らしくない最後の行動に照れを覚えながらも、改めて真面目に考えなければと気を引き締めた。


「つまりは、熊木の正体を確めねぇといけねぇわけか?」

「それしかねぇな。 桂が何の訳あって矢央を狙うのか…確かなことがわからねぇと、手の打ちようがねぇ」

「ところでよ、何で熊木は矢央の正体を知ってるんだろうな」



原田の問いに頷いた土方に、永倉はもう一つの謎を口にした。


「あいつは、最初から何か思惑があって矢央に近づいてきたんじゃねぇか?」

「それ僕も思ってた。 他の隊士は幹部に囲まれた矢央ちゃんに極力近寄ろうとはしてないのにさ、あいつだけ違う」

「以前、花見の席で、熊木は間島に近付いたようだ。 その時から、何やら怪しい雰囲気を感じていた」


藤堂は、熊木と矢央の試合の時からだったが、斎藤はもっと前の花見から熊木を怪しんでいたと告げる。

暫く沈黙が続いたが、沈黙を破ったのは沖田だ。



「不思議な能力というのは…お華のような力なのでしょうか」


一人離れ、柱に持たれていた沖田は、まるで独り言のように囁いた。


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