そんな矢央を見抜いているのかいないのか、伊東は意味ありげに微笑しながら階段を降りて来る。

隣に立った伊東からは僅にお香の香りがした。


「私の事お嫌いですか?」

「え?」


何を聞かれるかと思えば、その答えは簡単どちらかと言えば"嫌い"である。

が、そんなこと言えるはずもない。


「ふふ。 君のような可愛い子に嫌われるのは悲しい。 私は、とても興味があるのだけど」


正直者な矢央は表情から読まれてしまうが、伊東は気分を悪くする様子はなく、逆に更に興味深いと近付いて来る。

一歩下がると一歩近付く距離に眉を寄せた。



「な、なにかご用ですか?」


土方には、伊東と二人っきりになることを極力避けるようにと言われている。

勿論そうしたいが、相手が逃がそうとしない。


「以前も尋ねましたが、君は何を隠しているのかな?」

「な、何も」

「嘘が下手だ。 どうしても気になるんだよ、新撰組の幹部達が一隊員であるだけの君を必死に守ろうとしていることが。 明らかに私から遠ざけようとする」


頭が良いだけあり、伊東はやはり何かに勘づいているようで、しかし確信めいた発言はしなかった。

矢央に真実を言わせようと、誘導尋問を仕掛ける。


「君は新撰組の、彼等の固い絆を支える何かを持っていそうだ。 私も新撰組の一員ならば、それを知る権利はあると思うのですがね」


ズルズルと後退して行くと、背中が柱にぶつかり行き止まり。

これ以上逃げ場がないと下唇を噛み締めた。

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