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七月にも入ると、新撰組屯所の暑苦しさが増していた。

道場では剣術の稽古に汗を流し、庭では新しく採り入れた西洋式の大砲や銃の訓練で汗を流す男達。


―――ドドーンッ!


耳を劈くような大砲の音に、階段に座って様子を見ていた矢央は耳を塞いだ。

まるで雷が目の前に落ちたようだ。



「毎日こう煩くては、良い策も練られないですねぇ」


突然背後から聞こえた声に、ビクッと身体が揺れ、その弾みに足の間に挟んでいた箒が前方へと倒れていく。


カタン、カタンと階段を落ちていった箒を眺めながら溜め息をついたのは、背後にいる人物がお近づきになりたくない相手だからだろう。


恐る恐る振り返った矢央の表情は引き吊り、明らかに嫌そうである。



「こんにちは、伊東さん」

「こんにちは、間島さん。 お掃除は終わったのかな?」


扇子でゆるやかな風をおこす伊東を見て、扇子といえば芹沢だと脳裏に思い浮かべた矢央は、芹沢と違い優雅だなと苦笑い。

地面に落ちた箒を拾い上げ 「はい、先程終わりました」 と報告する。

最近入ったとはいえ、この伊東も一応上司なのだ。


さすがに掃除に飽きてサボってました、とは言えなかった。


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