「好い人でもなさそうです、ね?」


尻餅をつき見上げてくる熊木を冷静に見下ろす矢央を、熊木は初めて真剣な眼差しを向けた。

「ふ、ははっ! すみません、僕は勝負となると楽しくなってしまうようで」

「う…わっ!?」


一旦勝負はついたと思いきや、熊木はグッと木刀を握り締めると不利な体勢のまま突き、

油断していた矢央の右胸の少し上辺りに直撃。


「かっ…は、は、…っ」


胸を突かれた衝撃で呼吸が困難になり、肩をおさえながらよろよろと後退る。

目が霞む。 油断したことに後悔している暇はない。


何故なら、熊木は突いた木刀を一瞬のうちに引き寄せると、持ち手を浅くし後退る矢央を追って駆ける。


「っっ」

「勝負はこれから…ですよ」


ふらつく足が縺れ合い前に倒れ倒れかけた矢央の首筋目掛け、短めに握った木刀を横向きに構えた熊木が突っ込んで行く。



―――危険だ、と、思わず目を閉じた。



「それまでだ! てめぇら、一体なにしてやがる」

「っは! ふ、副長!」


後数センチの距離の間に、土方の逞しい腕があった。

熊木の木刀は矢央の首ではなく土方に命中し、倒れかけた矢央は土方の胸の中で深く息を吐いていた。


―――助かった。


「原田、藤堂、お前らがついていながらこの有り様。 覚悟はできてんだろうな、ああ?」

「「ひぇぇっ」」


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