睨む矢央に対して、熊木は笑みを崩さない。
挟み込んでいた木刀を払いのけ後方に飛ぶと、またしつこく追ってくる熊木に苛々が積る。
珍しかった。
気が長い方ではないが、滅多なことでは他人に腹が立つことはない矢央が熊木のしつこさに、否、何を考えているのか分からない嫌な笑顔に苛立った。
(なんだろう…。 熊木さんって、こんな気配の人だったかな?)
下段から振り上げられた木刀を横に飛び退き避ける寸前で、それを読んでいた熊木の攻撃は直ぐ様横に振られる。
その素早さに、重い痛みが矢央の横腹に直撃した。
「ぐぅっ…」
ドカッと、床に倒れたところに遠慮なく木刀が振り落とされるのと 「一本、それまで!」 と藤堂の焦った声が重なるが、熊木の攻撃の方が早い。
避けきれないかと思ったその時、矢央は素足で床を思いっきり蹴り、そのまま熊木の懐に入り込んだ。
木刀が落ちるほんの二秒の間に、矢央の肘が熊木の鳩尾に強く打ち込まれる。
「がはっ!」
「熊木さんって悪い人じゃないと思ってました。 けど…」
「……うっ!?」
肘の攻撃の後、熊木に隙が生じ時間の余裕が出来ると、次の攻撃に移る。
片手を床につき、身体を下げると足を払った。
すると大きな音を立て、熊木の身体が後方へと倒れた。
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