「木刀を飛ばした時から思ってたんだよね。 熊木は道場の一番奥にいた上に、道場入口にいた僕等に背を向けていた。
熊木と僕等の間には、稽古中の隊士がいながら、あの距離を真っ直ぐ矢央ちゃん目掛け木刀が飛んで…くるなんて上手すぎじゃない?」

「……てぇと」

「今見て分かるように、熊木の腕は悪くない。 なのに、わざと自分は弱いかのような発言。 あの細腕でこれってなんか…怪しいよなぁ」

「なるほどな」



藤堂の読みに頷く原田は、分かっているのかいないのか。

どちらにせよ熊木は弱くなどなかったことは確かで、呆れた視線を原田に向けていた藤堂は、熊木の行動を一つも見逃すまいと、また試合へと意識を戻した。


――ビュンッ、ビュンッ、


「避けてばかりですね。 やはり、素手と木刀では試合になりませんねっ!」



上段から降り下ろされた木刀を、矢央はパシッと両手で挟み受けた。



「あの速さを素手で受け止めた!?」

「さっすが、矢央ちゃん!」



中腰のまま上から押さえつけられる矢央は、グイッと顔を近付けて来た熊木に小声で尋ねる。


「熊木さん、何を企んでるんですか?」

「おや、一体なんのことですか?」


はぐらかす気なのか、本当に何もないのか。

しかし、熊木の攻撃には悪意を感じた。

木刀といえど、本気になれば死を招く。

軽い試合だと言ってあるのに、熊木の攻撃は矢央に暇を一切与えようとはしない。

それどころか、


「急所ばかり突こうとしないで下さいよ」


と、低い声で言い放った。


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