それに驚いたのは矢央だけではない。

土方の久しぶりに見た笑顔に、皆が驚いた。


「生言ってんじゃねぇぞ、ガキが。 誰がテメェの心配をしてんだ、ああん?」

「はへ?」

「俺が心配してんのは、新撰組に妙な噂が立たねぇかっつぅことであってな」

「ふふふ…」


土方の空の杯には沖田が酒を注ぎながら、土方の言葉を遮った。

睨まれた沖田は、悪びれた様子もなく自らの杯へも酒を注いだ。


「ほんと、素直じゃないですねぇ。 何だか私もお酒を飲みたくなりました」

「え? ダメですよ、沖田さんは!」


身体に悪いと止めに入ろうとした矢央をおさえたのは、意外にも斎藤である。


「少々の酒ならば良いではないか。 沖田さん、俺にも分けてくれないか」

「だな! こうなりゃ、夜桜に持ち込もうじゃねぇか!」

「って、左之さん、あんた夜番だったんじゃねぇの?」

「平助、こいつはもう止まらねぇって!」


何故か皆、次々に酒を注いだかと思えば、手に杯を持つと唖然とする矢央を振り返る。

誰かが、湯呑みを持たせた。



「テメェの門出に乾杯してやるよ」

「土方さん…」


皆、優しく微笑んでいる。

それを見た矢央は、己の手元を見下ろした。

この時代に来て初めて飲んだお酒で失態を晒して以来、宴会の席でも矢央は一人飲ませてもらえなかった。


いつか聞いたことがある、いつになれば酒を飲んでもよくなるだろうかと。


その時、土方はこう言った。

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