矢央がこの夏、永倉とまともに話が出来たのはあの月がやけに寂しく見えた日だけだった。

あの日以来、永倉は部屋に戻ってこなくなった。


仕事には顔を出すし、皆とも当たり障りない会話は交わすが、夜になると姿を眩ませるのだ。

食事はとっているのか、どこで寝ているのか気になり始めた八月のことである。

とうとう恐れていたことが起きたのだ。



「なんだと!? 永倉が、松平公に非行五ヶ条を訴え出ただと?」


土方の慌てぶりに驚いた隊士たちを何とか沈めた観察方の山崎は、どうしたものかと考える。


「永倉さんだけではなく、原田さん斎藤さん島田君に尾関さんも同様に」

「なんっつぅことを…。 今、内部が揉めていい時じゃねぇっつぅのに。 仕方ねぇ、俺が松平公のもとに出向く」



―――――バンッ


立ちかけた土方を 「私が行く」 と止まらせたのは新撰組局長・近藤勇。

神妙な面持ちの近藤は、既に出かける支度を済ませてあった。


「近藤さん……」

「この件に関しては、歳は関係ない。 松平公のもとへは私一人で出向く」

「なにを言って…あいつらは、新撰組を解散しろっつってんだぜ! あんただけの問題じゃっ…」

「そうまで追い込んだ原因が私にあるのだろう。 ……こうなるまで気づかなかったよ」


土方に背を向けた近藤は、この騒ぎを聞きつけ土方のもとにやって来る間に矢央に呼び止められた。


最近まともに話をしていなかった少女は、暫く見ない間に少し大人になったように印象を受ける。