うっすらと浮かび上がる姿は、紛れもなく山南だった。

穏やかな笑みを浮かべ、桜を眺め、そして土方達を見てはまた微笑む。


あのような死に方をした人間には思えない程、晴れ晴れした姿である。



「…もうっ、笑えって言ったけど、本当に笑われたらムカつくっつぅの! あっ、永倉さん! お酒注ぎますよ!」


土方達から逃げて此方に向かってくる矢央は、永倉の視線に気付くと近藤の徳利を奪い傍に寄る。


呆けた顔を向けられている。

否、矢央ではなく、その背後。


「…お、おい平助。 お前には、見えてるか?」

「は? 見えてるかって、一体さっきからどう……っ」


目を反らさず、隣の藤堂の着物を鷲掴み引き寄せた永倉。

藤堂は己達の杯に酒を注ぐ矢央の背後を見上げ、あんぐりと口を開く。


気のせいか?

見間違いか?


まるで少女を守る守護霊のように、矢央の傍で彼女を温かく見守っている彼。


山南は二人の視線に気付き二人に身体を向けると、笑みを絶やさず口を開いた。



"立派な桜をね…見に来たんだよ"


そう言って、己達の背後の桜を見上げる。



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