***
前川邸の庭で、正午過ぎ総長山南は、脱走により切腹を申し付けられた。
白装束に身を包んだ山南は、背後に立つ沖田を仰ぎ見ると申し訳なさそうに微笑んでみせる。
「すまないね、沖田君。 君に嫌な役ばかりさせてしまって」
山南は介錯役を沖田に頼んだ。
弟のように可愛がってきた沖田にだからこそ、その役を頼んだ。
「…貴方に関することで、私は一度も嫌だと思ったことはないですよ」
「…ありがとう」
山南を見下ろす瞳は、赤く充血していた。 沖田もまた、昨晩は一睡もしていないのだ。
二人のやり取りを黙って見ていた近藤は、バンッと一発畳を叩く。
「聞かせてくれ、山南。 どうして脱走などっ…」
「私は……」
今から切腹するというのに、見える空はどこまでも青く澄んでいた。
火照る頬を冷たい風が撫で、丁度良い熱冷ましとなった。
「君達が追い求めるような武士になれなかった。 否、なりたいと思うことを止めてしまった」
.



