騒ぎの原因は、とても美しい一人の女子。

昨晩、姿を消した永倉は山南の部屋を出た後、屯所を抜け出し向かうは島原。

山南の恋人―――明里を呼びに行っていた。


客でもない永倉を、主人はなかなか明里に会わせてくれようとしない。

しかしだからといって、おめおめ帰るはずもなかった。 これは永倉なりの山南への餞別。


仲間を助けることも、逃げるよう説得することも出来ない。

不甲斐ない己が、山南にしてやれるとすれば明里を連れて行くことしかないと思った。


店の前で 「明里を出すまで退かん」 と、営業妨害もいいとこな永倉の行動に、主人は仕方なく折れた。

漸く明里に会えたのは明け方近くで、事情を説明すれば明里は涙を浮かべながら屯所へと駆け出した。



――――そして、前川邸の格子越しに、明里は愛しい山南に会うことが出来た。



「山…なみはんッ! なんでっ―…なんでなん!?」

「すまない、明里。 いつか君を迎えに行くと約束したのに…」

「いや…いやや…」

「守れない私を許しておくれ」


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