「静粛に。では五十嵐先生、お願いします。」

そしてその五十嵐先生と呼ばれたイケメン先生が話を始めた。しかし華音の目線はその隣の先生、もとい隣人に注がれている。華音の大声が聞こえていたのか、ふと目が合う。最初に出会ったときのように優しい微笑みが落ちてきて、華音の胸はギュッと掴まれたかのように一瞬呼吸をやめた。あの時と同じことのはずなのに、妙に高ぶる胸に、華音はぶんぶんと頭を振った。

「では次に、天海飛勇(アマミヒユウ)先生、お願いします。」
「はい。」

 少し低くて柔らかい声で話し始める隣人に、隣人よりも先に教師なのだということを知る。

(っていうかなんで言わないのよ、あの時に。あたし、制服着てたじゃん。自分の赴任先の学校の制服くらい分かるでしょ?)

 そう考え始めたら、無性にもう一度話さなくてはならない気がしてきた。なんとしてでも捕まえて、なんであの時話さなかったのか問い詰めなきゃと、華音は息巻いた。

「天海先生には音楽を担当していただきます。また、天海先生は2-Aの副担任も担当していただきます。」
「なっ…あいつが副担?」
「あいつって…華音、天海先生と知り合いなの?」
「知り合い…じゃないけど…知ってる。」
「なにそれ…どーゆーこと?」

知り合いではなく、隣人だ。

* * *

 新任式を終え、教室に戻る道すがら、事も事であるがゆえに声が必然的に小さくなる。

「隣に住んでる?」
「そう。ってか声でかすぎるんだけど…。」
「ごめん。でもマジ?」
「マジ。だからあたしがあんな声出したんでしょ?初めて見た人だったらフツーあんな風にならないわよ。」
「まぁ…そうだけど…。」
「あいつ、知り合いなのかよ?」
「大樹。」

 大樹の鋭い目が、今日は一段と鋭い。

「華音の知り合い?五十嵐っていうやつ。」
「あ、違う違う。そっちじゃなくて…。」
「全員席についてー。」

華音のクラスの担任、宮野唯(ミヤノユイ)先生が入ってきた。担当科目は国語。宮野は40代らしいと耳にしたが見た目は若く、20代に見える可愛い先生である。

「では副担任の天海先生を紹介しますね。華音さん、随分大きな声で叫んでましたね?」

 教室中がどっと湧く。

「先生!あたしの恥をここで掘り返さないで!」
「あらあらごめんなさい。あ、天海先生、こちらへどうぞ。」

 宮野に手招きされて、黒板の前に立つ先生を華音はじっと睨んだ。