机の中に教科書を入れていると、立て付けの悪い扉を威勢よく開ける音が響いた。
広香がそちらへ目をやると、木綿子が入り口から
「おはよう!」
と教室中に向けて言うところだった。
数人がそれに応えるのに頷きを返すと、木綿子は最後に広香へまっすぐと『おはよう!』を放つ。
まるで大きなバスケのボールを、ばしっと胸のど真ん中にパスされたみたいで、あいさつを受けたこっちがすっきりとする。
「木綿子って、名が体を現したんだね」
自分の席に来てくれた木綿子に、広香はしみじみ言った。
読書の好きな広香は、小学生にしては大人びた話し方をする。
誉めてくれたことは、その口調で分かったから、照れた木綿子はおどけて言った。
「絹子だったら、ゴージャスさや気品が漂ったかも」
広香はそれに応えていたずらっぽく言った。
「でも、おばぁちゃんの名前みたい」
「ほんとだー」
二人が笑いあい、『上品だけどババ臭くない名前』を言い合っていると、
体育館で朝会が行なわれるという校内放送が流れた。


