光の子




矢楚は、微かに頷いて言った。

「親父の存在がね、どーんっと、壁みたいに立ちはだかってたんだ」

「そっか……すごいよね、お父さん、プロのサッカー選手だったんだから」      
「やっぱ、超えられないかもって思うと、別の道、行くかなぁとかね」


情けないよね、と矢楚は笑う。


「ううん、尊敬する。小さいときから、そんな、プレッシャーみたいな中で、サッカーをやり続けてたんだから」  


矢楚は、目を少し細め、ややうつむいてそのまま黙り込んでしまった。
広香は何か間違ったことを言ったのか、一瞬不安になった。

矢楚は心配そうにこちらを見る広香に気づいて、違うんだ、と呟いた。

少しかすれた声で、心にへばりついた思いを引き剥がすように矢楚は続けた。


「ここ二年くらいはね、親父が引退したあと、脱け殻みたいになってるのが、腹立たしかったり。
何より、怖かったんだ。サッカーの夢の先がさ、こんな辛いものだなんて、想像もしてなかったから」