「私に、できるかな。月の努力」



「広香には、お母さんや柊太がいる。
俺も、サッカーの夢のために今やるべきことをちゃんとやる。
大事にするべきものを忘れなければ、ブレないし、暴走もしないよ」



矢楚が人知れず、二人の恋が生き延びる道を探ってくれていたこと。

その真剣さが、ただ好きだと言われる以上に広香を嬉しくさせた。



「矢楚、ありがとう」



「ん?…。
どういたしまして」



矢楚は握っていた手を、広香が着るウィンド・ブレーカーのポケットに入れ、
そこで広香の右手を離した。



「こっちはもう温まったから。次、そっち」



矢楚は広香の左側にまわって、今度は左手を包んだ。



たった数時間で大きく動きだした二人の宇宙には、
歓びと優しさが静かに広がり、やすらいでいた。