矢楚のウィンド・ブレーカーは、かすかにミントの香りがする。
バスに乗るのはやめて、二人、広香の家まで歩くことにした。
「焦ったよ…、もうフラれるのかと思った」
「急に来てびっくりさせたね」
「オレに、会いたかっただけ?」
広香は、立ち止まってしまう。
「変だよね、学校で会えるのに……」
矢楚も立ち止まった。
考え深そうな顔で広香を見るだけで、広香の問いには答えなかった。
矢楚は、広香に向かって左の手のひらを差し出した。
「手」
広香は促されるままに、矢楚の手のひらに右手を載せた。
驚くほど熱を帯びた大きな手が、広香のそれを包み込んだ。
「やっぱり、冷えてる」
六月の夜風はひんやりと、ワンピースの裾を揺らす。
「手、つないでていい?」
矢楚がふんわりと言うから、広香もごく自然にうなづいた。


