「よかった」
広香がつぶやくと、矢楚の表情にわずかに緊張が混じる。
「どうした?なんか、あった?」
「ただ、顔が見たくなって」
「えっ?」
不意打ちをくらったような顔をした矢楚の瞳に、グラウンドのライトが映りこんで、きらめいている。
矢楚は口元に手を当てると、足のあたりを見つめて何やら考えている様子だ。
迷惑だったに違いない。
急に風の冷たさを感じて、広香は身震いした。
矢楚はすぐに気付いて、ウィンド・ブレーカーを脱いで広香に渡した。
「広香、これ着て待ってて。オレ、速攻で荷物とってくるから」
言い終わらないうちに駆けていく。広香はその背中に慌てて言った。
「ごめんね!」
矢楚は振り返ると、首をかしげて笑った。
「なんで?来てくれて、嬉しいよ」


