歓喜と愛の祈り。


娘を産んだ瞬間に、それが美しい赤となって、脳内を染め上げた。



その赤を再現するのに、二年かかった。
理想の赤を、かなりの頻度で出せるようになったのは、昨年のことだ。



そしてようやく、師匠に見て頂ける作品が出来た。



歓喜と愛の祈りを内包した赤地の皿に、二匹の魚を上下、弧を描くように線描し、



その二匹の腹に守られるように、中央に小さい魚を描いた。




「ねぇ、お母さん。
どうして、大きなお魚さんのお腹にだけ、ボールがあるの」


三歳になった娘が、鈴を転がすような愛らしい声で聞いた。


ふふふ、ボールではないのよ。広香は、娘を抱き上げた。

父親ゆずりの癖毛が、二つに結った髪をくるくると螺旋にする。



「あれは、お月様よ」



「どうして、小さいお魚さんのお腹には、何もないの〜」


それはね、広香は娘に頬を寄せた。



「このお魚はね、これから旅に出て、見つけてくるからよ」



二センチの距離で見つめても、愛らしい。
びっくりおめめの天使。