「なんだろう、もう、夢みたいで、ちょっと混乱してる」
矢楚はそう呟いて、広香の髪を撫でた。
「広香。
今日、新月なんだ。十年前にここでオレが告白した日と同じだよ」
肩に埋めていた顔を起こして、広香は矢楚を見た。
「調べたの?」
「オレは意気地なしだから。運命のサインを探してしまうんだ。
あの夜、ためらい月が昇ったみたいに、オレの背中を押してくれる運命のサインを、いつも」
「矢楚は意気地なしなんかじゃないよ」
矢楚は指で広香の頬をなぞりながら、自嘲的な笑いを浮かべた。
「いや、うじうじしてるんだよ。
立派に自分の道を切り開いた広香にとって、オレなんか足枷(あしかせ)かもな、とかね。
傍にいたいとか、それ以上に結婚したいとか、独占欲に過ぎないかもしれないって、迷ったり。
分からなくなる」
切々と矢楚が話してくれているというのに、広香は急に焦れったくなった。
そんな話、今は、どうでもいい。
広香は矢楚のくちびるを見つめ、指でなぞった。
「もういいから。
私たち結婚するんだよ」
ああ、そうだね。
矢楚の返事は呻ぐように擦れた。


