「全然、気にしてないよ。私のためにならないことなら、断ったでしょ」
木綿子は前を見たまま、思い出し笑いをした。
「矢楚ね、なんだか、強くなってる。
初めに、こんなのスパイみたいで嫌だって断ったときね。
矢楚が、言ったの。
広香に何かあったら、すぐに帰らなきゃいけない。
広香のこと、少しでもいいから知っておきたいんだ。
たがらさ、来日に向けたスケジュール管理だと思ってよ。
仕事だから、やれるよね。
って」
矢楚がそんな強引な言い方をするなんて。
「私、ハガキくらいしか送っていなかったから」
「それだけでは、待つのが辛くなったのかな。
ま、本人に聞けばわかることか」
矢楚が待つ場所へ、車で送ってもらうところだった。
学生時代の思い出があちらこちらに輝く、懐かしい町並みに車は入った。
ほら、見て、あそこ。
あ、ほんと、変わっちゃったね。
二人はしばし、同級生にしか交わせない会話を楽しんだ。


