木綿子とそうやって話しているうちにも、ロビーに人が増えていく。
授賞式の開場時間が迫っていた。
広香の師匠と響子も姿を現した。
木綿子は、いったん会場を出て、授賞式が始まるときに戻ると言った。
気を遣ってくれたのだろう。
広香が木綿子から離れ、師のもとに向かおうとした時。
「広香!」
木綿子が呼び止めた。
広香は振り返る。
木綿子は、人の心を明るくするようないつもの笑顔で言った。
「ごめんね!」
「え?何が?」
「先に謝っとく」
「何を?」
「……早く、行っておいで」
木綿子は広香の問いには答えず、
後でね、とロビーを後にした。
広香は不思議に思ったが、均整のとれた木綿子の後ろ姿を少し見送って、師の元へ急いだ。


