「木綿子、待たせてごめん」
取材を終え、広香はロビーのソファーに座る木綿子に駆け寄った。
「急に来ちゃったのは、こっちのほうだから」
昨夜、服を選んでくれた時には、授賞式には仕事があって行けない、と残念そうに言っていた。
「急に、近くまで仕事で来たものだから、寄ったんだ」
「え?そんな、奇跡みたいなこと、あるの?」
「まあね、あったんだね。広香、やっぱ似合ってるよ。昼間だと白がすごく爽やかで、より似合ってる」
会社勤めではない広香には、スーツはタンスの肥やしになるからと、
木綿子はシンプルでクラシカルなワンピースを見立ててくれた。
「木綿子のスーツ姿、初めて見たよ。
働く女って感じだね、かっこいい」
木綿子は、夏物のベージュのスーツを着ていた。
ボブの髪に、きりりと抑えた化粧。
女性らしさの中に頼もしい印象がある。
「急きょね、選手を担当させてもらえることになったの。
先輩のアシスタントだけどね。
その人と初顔合わせだったから、スーツにしたんだ。
いつもは、暑くてね、ジャケット省くんだけど」
広香は、すごいね、と木綿子を祝福した。
木綿子は、スポーツ選手専門のエージェントに勤めている。
有名な会社らしいのだが、広香は名前すら知らなかった。
矢楚のコネ、と木綿子は笑った。
矢楚が契約するエージェントで、日本での活動をサポートしているらしい。
新人の木綿子は、矢楚に会うことすらできないらしいけれど。


