一年ほど前。
師にそんな胸の内を打ち明けると、
響子のように一門を出て独立し、
いわば月島焼きともいえる、自身のめざす物作りをしたらいいと言ってくれた。
大山焼きを継ぐには修業は足りないし、
窯も伝統的な穴窯である必要があるが、
自らの看板を掲げるのなら、独立してもよい。
ガス窯を使うなどすれば、割安な製品を作ることもできるだろうと。
記者は、一歩踏み込んで質問をしてきた。
「伝統の絵柄に、こうして月を加えられたように、
今回の受賞を機に独立なさって、ご自分の焼き物を目指すおつもりはあるのですか」
「いえ。
私は、まだ師匠から赤を使うのを許されていないんです。
まず、青を極めよと」
「へぇ」
興味深そうに、記者はメモをとる。
「ですから、赤を使ってもよいと師に言って頂くまでは、師から教えを頂きたいです」
そうですか、と記者が相槌をした時、会場の扉が開いた。
覗いた顔に、広香は驚く。
どうして。


