勉強机の椅子を引き、
コルクボードの前に腰掛けて、はがきを眺めた。
このコルクボードの世界に飛んでいきたいと、何度思ったことだろう。
ここに踏みとどまるために、矢楚からの電話は断り、サッカー番組も観ないようにした。
矢楚が日本のテレビCMに出るようになると、同居人の菜摘にテレビを譲った。
いつか、一人前になったら、イタリアで陶工になろうか。
だけれど、もし、矢楚のイタリアでのサッカー生活が終わってしまったら。
そう考えると、ただ矢楚ありきでイタリアに行くことに抵抗があった。
矢楚まかせの根なし草になるのが、嫌だったのだ。
ただ相手の眩しさに気後れしていた十代とも違う、
自分がいま歩んでいる道への誇りが、広香の胸に息づいていた。


