壁の一画は、横幅が広香の身長ほどもあるコルクのボードが架けられ、 その一面が絵はがきに埋まっていた。 月に一度届くはがきの文面は、毎回ほとんど同じだ。 『元気にしていますか。僕は、元気です。 mi luna、僕は変わっていません』 最初のはがきが届いた時、イタリア語で書かれた単語の意味を知りたくて、辞書を買った。 mi lunaとは、『僕の月』という意味だった。 広香を僕の月と呼ぶたった一言に、 矢楚の万の愛と、ためらい月の夜が宿っていた。