離れに戻ると、体に染み付いた蚊取り線香の匂いが鼻についた。
自室に入って荷物を下ろすと、広香はまず窓を開けた。
網戸とその枠に殺虫剤を吹き付ける。ムカデの侵入を防ぐために。
夜風がレースのカーテンを揺らした。
その窓辺には、兄弟子から譲ってもらった勉強机を置いている。
そこにずらり並んだ、イタリア語の背表紙。
焼き物の図版や、写真集だった。
矢楚から、届けられたもの。
住んでいるボローニャの焼き物や、遠征先で買い求めたらしい書籍もあった。
さらにはイタリアの地図、モザイクの美しい陶版など、
広香を見守るように壁に飾られたもののほとんどは、矢楚からの贈り物だった。


