広香は、話す言葉が見つからず、切ったばかりの髪を夜風にあずけて、
好きでもない酒を口にはこんだ。
響子も、少しもの思いに沈んでいる。
席を立つべきだろうか。
広香がそう思った時、響子が言った。
「心底愛せるオトコってさ、人生で一人、出会えるかどうかだね。
……子宮ないんだわ、私」
缶をクーラーボックスの上に置き、響子は背もたれに体をあずけた。
「三十になったばっかりの頃に、子宮頸がんになってさ、日本にいたから、割と初期に見つかって。
ラッキーと呼べる範囲だったけど。
四十を前に、子宮に転移してね。
メキシコでがむしゃらに生き抜こうとしてたから、体は二の次だし、医療先進国でもないしさ。
ま、発見した時には、進行しててさ。全摘出となったわけよ。
子どもが産めなくなった」
かけるべき言葉もない広香を一瞥し、
響子は風に揺れる木だちのシルエットを見つめた。
「同居してたパートナーがいたんだよ、プロポーズされててさ。
あんたと一緒だ、待たせてた」


