「なんでサッカーが好きか、言ったっけ?」
「え? ううん」
「……もどかしいからだよ。
手を使えば速いのに、わざわざうまく動かない足を使うんだ。
点もなかなか入らない。
一点入れるために九十分走り回る。
そこが、好きなんだ」
うん。
広香は相づちをうったものの、なぜそんなことを矢楚が言いだしたのか、分からなかった。
矢楚はとまどう広香に微笑んで見せる。
「だからね。
広香が、ちゃんと気持ちを見せてくれたら。
好きだと言ってくれたら、オレは待てるよ。
広香が、もういいよって言う日まで。
お互い好きなのに、一緒にいれないとか。
付き合ってるのに全然会えないとか、
そういうもどかしさ、オレにちょうだい」
矢楚が、広香の頭に自分の頭をこつんとつけて囁いた。
「好きだって、言って」
広香から嗚咽が漏れた。


