「うやむやにしたまま何年も別れているのは、もう止めよう」
矢楚のため息が髪を震わす。
それが広香の胸に甘い痛みを呼ぶ。
振り切るように広香は言った。
「でも、私」
「言って、広香。なぜキスしたの」
「でも、私ね、今は矢楚とは」
「違うよ、広香」
矢楚は広香を抱き上げた。
その目の中に、広香が映っている。矢楚の強い意志と共に宿っている。
「好きだって、言って」
「矢楚、聞いて」
「嫌だよ」
矢楚は、広香を横抱きにした。
「首につかまってて」そう囁いて、波打ち際に進む。
矢楚は脛(すね)のあたりまで海に足を踏み入れた。
「矢楚!?何してるの、明日帰るのに、靴が濡れちゃう」
「そんな、どうでもいいことを」
矢楚が笑った。


