広香は、かぶりを振った。
言ってしまったら。その先は、どうなるの。
「私は、何にもなれていない。矢楚に胸はれるようなものは、何もないの。
あの日から、しだれ桜の下でさよならしてから、
……何も変わってない」
言葉にしたくなかった。自分がちっぽけで。
矢楚の歩んできた三年近い日々との違いに、情けなくてたまらなくなる。
広香は、肩をつかむ矢楚の手をはずした。
ごめんね、帰る。
逃げるように立ち去ろうとした広香を、矢楚が後ろから抱き締めた。
「行かせないよ。
広香……、好きかって、聞いてるんだよ」
耳のそばで柔らかい声が響く。
その声は髪に潜り、首筋を通って、快感に変わる。
広香は思わず目を閉じた。
「大丈夫。その先は、一緒に考えるから。
ただ、聞きたいんだ」
「知ってるでしょ」
矢楚は、抱き締めたまま頭を横に振る。
「あの日に言ったもの、私」
熱にうかされるように矢楚が囁いた。
「今の気持ちだよ。オレにキスをした、今の気持ちを、言葉にして。
お願いだよ、広香」


