波の音が近づく。
少し身を屈めて、二人はアダンのトンネルを抜けた。
その先には、
昨夜とはまったく違う景色が広がっていた。
淡白く光る砂浜。
砂の一粒一粒が、余すことなく月の光を反射している。
自分がどこにいるのか、分からなくなる。
沖縄でも、日本でも、地球ですらない。
まるで月面に立っているようだった。
波はゆったりと、静かに寄せては返す。
出たばかりのためらい月が、海の上で輝いている。
なんて、美しいの。
広香は、思わず矢楚を仰いだ。
「ありがとう」
矢楚が見返す。
「連れてきてくれて」
「どういたしまして」
まだ、足りなかった。
もう一度広香は言った。
「矢楚、ありがとう」
涙があふれた。
「泣かないで」
そう言って、矢楚が広香の涙を指ですくった。
「どうしよう。もらい泣き」
矢楚の目に、うっすらと涙が光っていた。
矢楚の涙を見たのは、初めてだった。
広香は驚いて目をしばたいた。


